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信州といえば「そば」とのイメージが強い。
今回、戸隠、野沢温泉、黒姫、妙高、北志賀と取材をしたが、どこの地域でも美味しい「そば」は必ず浮かび上がってきた。
私の両親は東北の生まれだ。縁あって、信州に来て、私は生まれ育った。私が生まれたころには、我が家には信州独自の味(そばだけでなく、おやき、にらせんべいなど)が定着していたが、それでも父は「粉物を主食にするなんて、貧乏人のやることだ」と、認めることはしなかった。そんな父も東北の貧しい農家に育った。米が十分に取れず、腹を満たすために父のいう「粉物」に頼らざるを得ない気持ちは重々わかっていただろう。むしろ、貧しくても主食は米を食べる!という逆の意地があったのかもしれない。
「そば」に関して地元の人々から、いろんな話を聞かせてもらった。
今は観光名物のひとつになっている「そば」が各地域で生きていく人々の生命を支えてきたのだ。
戸隠で聞いた「貧しいけれど、工夫し、心を込めた、おもてなしとしてのそば」「貧しい山里で取れるそばの、生命の源としての実をまるごと食べられるそば」
そして、北志賀にも「はやそば」というそばがある。
「そば切り」と呼ばれる正月や祭りなどの「晴れの食べ物」であったのに比べ、「はやそば」は名の通り早くできることから、過酷な農作業で疲れた人々が短時間で用意でき、簡単に食べられ、おなかも満足できる日常の食事だった。
鍋に水を張り、千切りにした大根をいれ硬めにゆでる。しゃきしゃきとした歯ごたえを残すのがポイントだ。そこへそば粉を生のまま入れて手早くかき混ぜる。
とにかく手早さがポイントだ。よく言われる「耳たぶぐらいの硬さ」がベストだ。
だしを効かせた薄めのツユに薬味を入れて出来上がった「はやそば」を落とし、熱いうちいにするっと口に流し込む。舌に感じるその滑らかさ、噛みしめる大根の歯ごたえ。
簡単な調理方法で出来上がるとは思えないほどの、食感と満足が得られる。
これこそ、生活から必然的に生まれた「美食」であろうと思う。
食は、命を支えるためでもあり、心を豊かにするものでもある。
レタスとトマトとキュウリを別々の皿に盛れば、それは、レタスとトマトとキュウリでしかない。
合わさって初めて「サラダ」というものに変わる。「一品」として通るものになる。
須賀川の人々は厳しく、貧しい生活の中から知らず知らず生み出したのだろう。
信州に根ざす「そば」の深さに、またひとつ驚かされた。
(長野県無形文化財指定)